鳥居とは経文にも説かれず、伝録にも記されず、因縁判らざるなり。
名を鳥居と云うは、西方(酉)は妙観察智に当たり、証菩提心の義なり。
鳥居に二柱と三木あり。二柱は定恵不二・悲智因果・両界の功徳、胎金両部の所変なり。第二に二王二天の義、魔界を退け災難を払い、息災延命にして仏道に進む門戸なり。
三木とは笠木・貫木・嶋木なり。これを戒定慧の三学と云い、三身相即・三諦即是の法門、三徳秘蔵の法門なり。
二種を合すれば五木となる。これ五大・五行・五智・五仏・五分法身・五波羅密なり。顕密二教・世間出世間の万法、皆此の五法より成る。
聖徳太子が天王寺を建てたるは推古天皇定居三年なり。極楽東門の中心に当たり、額に鳥居打たれて在す。即ち極楽往生の東門なり。他力の門戸に鳥居を立てるは、太子救世観音なる故に定めて思し召し有るなり。
鳥居の起源は経典にも伝承にも記されていない、と冒頭で断った上で、密教的・哲学的な解釈を展開する。「酉(西方)=妙観察智」という方位神学から「鳥居」の名を説明する。二本の柱は「定恵不二・胎金両部」、三本の木(笠木・貫木・島木)は「戒定慧の三学」に対応し、合わせると五木となって五大・五智・五仏・五波羅蜜を体現するという。最後に聖徳太子が四天王寺を「極楽の東門」として建立し、鳥居を立てた事例を引いて、鳥居が「他力往生の門戸」であるという結論を示す。
鳥居事は『神道集』の中でも異色の章である。他の章が「縁起物語」として神社の前生譚を語るのに対し、この章は純粋に神社建築の「象徴論的解釈」であり、縁起もなければ前生物語もない。神仏習合の理論的側面——建築物を仏教の法門として読み解く思考——を端的に示す資料として重要である。
「妙観察智(みょうかんざつち)」は密教の五智のひとつ。「五大(地水火風空)」「五行(木火土金水)」「五智(法界体性智・大円鏡智・平等性智・妙観察智・成所作智)」「五仏(大日・阿閦・宝生・阿弥陀・不空成就)」が鳥居の五木に対応するという論理は、中世密教の宇宙論的思考の典型である。
「四天王寺」の建立が推古天皇の御代(593年)とされる。聖徳太子が救世観音の化身であるという信仰(太子信仰)が根拠として引かれており、建築物を仏教的聖地として権威づける論法が見られる。
| 鳥居の部位 | 仏教的対応 |
|---|---|
| 二柱 | 定恵不二・悲智因果・胎蔵界・金剛界(両部)/二王二天 |
| 三木(笠木・貫木・島木) | 戒定慧の三学/三身相即・三諦即是・三徳秘蔵 |
| 五木(二柱+三木) | 五大・五行・五智・五仏・五分法身・五波羅蜜 |