稲荷明神は、上御前は千手、中御前は地蔵、下御前は如意輪観音なり。
或る人の日記によると、下御前は如意輪、中御前は千手、上御前は命婦にして辰狐なり。本地は文殊なり。
稲荷大明神は宇迦之御魂神なり。本地垂迹の理を明らかにし、神仏一体の証なり。稲荷は五穀豊穣・商売繁盛の神なり。
稲荷明神三社の本地仏を列挙する。上御前=千手観音、中御前=地蔵菩薩、下御前=如意輪観音とする説と、上御前=命婦(辰狐)で本地は文殊菩薩とする異説を並記する。稲荷大明神の本体は宇迦之御魂神とし、五穀豊穣・商売繁盛の守護を説く。
伏見稲荷大社(京都市伏見区)の三社(上社・中社・下社)の本地を複数の説を引用して列挙する形式は、稲荷信仰の重層性を示す。辰狐(白狐)と文殊菩薩の習合は密教の影響を受けたもので、狐を仏法護持の使者とみる観念に基づく。秦氏の農耕守護神から出発した稲荷信仰が中世に商業・工業へと神格を拡大した過程を反映している。
| 前生の姿(因位) | 顕現先・場所 | 本地仏 |
|---|---|---|
| 上御前 | 上社 | 千手観音(異説:命婦・辰狐、本地文殊菩薩) |
| 中御前 | 中社 | 地蔵菩薩(異説:千手観音) |
| 下御前 | 下社 | 如意輪観音(異説:如意輪観音) |