TOKIWA
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連載・第一篇 SERIES PART I
巻第七 第四十一

伊香保大明神

Ikaho Daimyōjin-ji — Shintōshū, Vol. VII, No. 41
典拠神道集 巻第七 第四十一
著者渡邉 朱鷺
巻第七 第四十一 上野国第三宮伊香保大明神事
原 典

伊香保大明神は赤城大明神の妹で、高野辺大将の三番目の姫君である。高野辺中納言の奥方の弟の高光中将との間に一人の姫君をもうけた。

高光中将は上野国の国司を他に譲ったあと、前の目代であった有馬の伊香保大夫のもとで暮らしていた。北の方の伊香保姫は父や姉君の亡魂に奉幣するために淵名社へ参詣した。その帰り道、現在の国司である大伴大将が渡しで河狩りをしているところを通り過ぎた。大伴大将は輿の簾の隙き間から姫を一目見て忘れられなくなり、国司の威勢で姫を奪おうとした。

伊香保大夫は九人の子と三人の聟を大将として防戦したが、国司は四方から火をかけて攻めたてた。伊香保太夫は、主人の伊香保姫とその姫君、女房と娘の石童御前・有御前を連れて、児持山に入った。高光中将はひどく負傷しており、伊香保太郎宗安と共に猛火に飛びこんで姿が見えなくなった。

伊香保太夫は上京して帝に奏聞した。帝は伊香保姫に国司の職を持たせ、高光中将の娘を上京させるよう云った。伊香保太夫は目代となり、九人の子を九ヶ所社に祀った。

伊香保大明神は本地薬師如来(湯前)と十一面観音(里下り)を有し、上野国第三宮として鎮座す。これより伊香保大明神の社殿を建立し、祭祀を営んでいる。

【要 約】

赤城大明神の妹にあたる高野辺大将の三女・伊香保姫が主人公。高光中将の妻となった伊香保姫は、淵名社参詣の帰途に新国司・大伴大将に見初められ、強奪を企まれる。伊香保大夫一族が防戦するが、国司の軍勢に四方から火をかけられ、高光中将は猛火の中に消える。伊香保太夫の上京・奏聞により帝が裁定を下し、伊香保姫は国司職を授かる。九人の子は九ヶ所社に祀られ、伊香保大明神として上野国第三宮に鎮座する。本地仏は薬師如来(湯前権現)と十一面観音(里下り権現)の二体。

【注記】

「淵名社(ふちなしゃ)」は現在の群馬県伊勢崎市境・淵名神社に比定される。伊香保姫が「父や姉君の亡魂に奉幣するために」参詣したという記述は、赤城大明神事との家族的連続性を示す重要な接点である。

「湯前(ゆぜん)権現」と「里下り権現」の二体制は、伊香保神社の温泉神としての性格(薬師如来の「病気平癒・温泉守護」の属性)と里宮としての性格を分けて体系化したものと解される。本地仏が二体設定されている点は、上野国グループの中で伊香保事が最も複雑な神仏習合の構造をもつことを示している。

赤城事が「山上の沼神」という自然神的性格を持つのに対し、伊香保事は「国司の横暴・帝による裁定」という政治的文脈が色濃く、東国の在地権力関係を縁起に組み込んだ点が特徴的である。

── 本地仏対応表 ──
前生の姿(因位)権現の別称本地仏
高野辺大将の三女・伊香保姫湯前権現薬師如来
同上里下り権現十一面観音
伊香保大夫の九人の子九ヶ所社