TOKIWA
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参考文献 REFERENCE
第三十

仏前二王神明鳥居獅子駒犬之事

Butsuzen Niō Shinmei Torii Shishi Komainu-no-koto — Shintōshū, No. 30
典拠神道集 巻第五 第三十
著者渡邉 朱鷺
巻第五 第三十
原 典

抑も仏前二王とは、金剛力士の事なり。金剛力士は仏の守護神にして、阿形・吽形の二体なり。阿形は口を開き、吽形は口を閉ず。これを阿吽(あうん)と云う。仏の前に置くは、魔を退け、仏法を守護する故なり。

神明鳥居とは、神社の鳥居を仏前に立てる事なり。鳥居は神域と俗界を分つ門にして、仏前にもこれを立て、仏を神の本地として崇む。

獅子・駒犬とは、狛犬の事なり。獅子は雄、駒犬は雌なり。一は口を開き、一は口を閉ず。これも阿吽の義なり。神社の前に置くは、邪気を払い、神域を守る故なり。仏前にもこれを置き、神仏一体の証とする。

本地垂迹の理を明らかにし、神仏一体の証なり。金剛力士は釈迦如来の守護神にして、神明鳥居・獅子駒犬は神の守護なり。これらを仏前に置くは、神は仏の垂迹、仏は神の本地なる故なり。

衆生を済度する為に、神仏一体の施設として顕現す。これ神道の深義なり。

【要 約】

仏前の金剛力士(二王)は阿形(開口)と吽形(閉口)の二体で魔を退け仏法を守護する。神社の鳥居を仏前に立てるのは神域と俗界を分つ門として神仏を一体に崇めるためである。狛犬(獅子・駒犬)も阿吽の対構造を持ち、神社・仏前双方に置かれ神仏の守護を融合させる。これらは「神は仏の垂迹、仏は神の本地」という本地垂迹の原理を建築・造形として体現した施設である。

【注記】

金剛力士(仁王)・狛犬・鳥居の三者を「阿吽」という一つの象徴原理で統一する本章の論理は、神仏習合思想の洗練された展開である。阿(ア)は梵語のアルファベットの最初の音で万物の始まり、吽(ウン)は最後の音で万物の終わりを意味する。この「始まりと終わり」「陽と陰」の対原理を、寺社の守護像に一貫して読み込む点は密教的な宇宙観を反映している。

「神社の鳥居を仏前に立てる」という慣習は中世の実際の寺社景観に見られた。例えば興福寺(藤原氏の氏寺)の前には春日大社の鳥居が立てられ、寺と神社が同一の聖域を共有していた。本章はこの慣習を神仏一体の理論的根拠として説明している。巻第一「鳥居事」では鳥居を胎蔵・金剛の両部に対応させており、本章と相補的である。

狛犬の「獅子は雄・駒犬は雌」という性差の説明は、後世の狛犬解釈に引き継がれた。実際には獅子(ライオン系・口を開く)と狛犬(一角の想像上の犬・口を閉じる)の対で、左右の形が異なる古典的な形式を指している。現代の神社でほぼ統一されている狛犬の形(両者とも犬形)は江戸時代以降に定着した。

── 阿吽の対応表 ──
場所阿形(開口)吽形(閉口)
仏前金剛力士・阿形金剛力士・吽形
神社・仏前獅子(雄)駒犬(雌)
神域の門鳥居(神域側)鳥居(俗界側)